IMUのチップをプリント基板に実装する
IMUのチップはQFNパッケージというICからピンが伸びていないパッケージで提供されることが多く、手作業によるはんだ付けが困難です。
IMUチップを自作基板等に実装することができれば、基板の小型化、最適化が期待でき、ドローン等の小型のロボットに組み込む際に便利です。
この記事では自分がIMUチップをプリント基板に実装するために行った手順やノウハウ等をまとめたいとおもいます。
自分がやってみた感じ特殊な技能は必要としなかったので、どなたでも作成可能だと思います。
自分が作成する基盤の仕様は以下です、基板設計ツールはKiCADを使用しています。
目次
基板設計
KiCADを使用して外注用の基板データを作成するまでの流れを解説します。
KiCADにライブラリをインポート
KiCADでMPU9250を使用するために、MPU9250の回路図、フットプリント等が含まれるライブラリを使用します。ライブラリを使わなくても、KiCADの機能で自分で回路図やフットプリントを作成することもできますが、面倒なため外部のライブラリを使用しました。
使用するライブラリはPCB Part Libraryというもので、KiCADへの導入方法はここが参考になります。
回路図設計
MPU9250の周辺回路を設計します、マイコンボードの周辺回路については、以前書いたこの記事が参考になるかと思います。
IMUの周辺回路はデータシート通りに作成していくだけでOKなので、MPU9250のデータシートを参考に設計しました。
今回はSPIで通信するので、右の回路をそのまま実装しました。
基板パターン設計
回路設計ソフトを使って実際の基板レイアウトをデザインしていきます。
とくに注意点はないですが、IMUのx, y, z軸は基板に配置した際に決まるので、こだわる場合はチェックしておいた方が無難です。実装後にどっちがx軸かわかるようにシルクパターンで矢印等書いておくといいかもです。
自分は割と適当に設計しました。
プリント基板の外注
外注サイトに依頼してプリント基板を作ってもらいます。
お金がある場合は日本国内の基板外注サイトで作ってもらってもいいですが、1万円以上するので、自分は中国のサービスを利用してプリント基板を作成しています。基板サイズにもよりますが、10枚程度発注して送料含めて3000円くらいです。今回はステンシルを付けるので1000円ほど高くなります。
ステンシルは、はんだ付けが必要な個所に穴が開いている薄い金属板で、液状のはんだペーストをステンシルを重ねた基板の上から付着させることで、プリント基板の適切な個所に精密にはんだを付着させるためのものです。
今回はFusionPCBを使って発注を行いました、KiCADから外注用のデータ出力方法はこちらを参考にさせていただきました。
届いた基盤とステンシルはこんな感じです
プリント基板作成
リフローをしてプリント基板を作成します。リフローの全体的な流れをつかむには以下の動画が参考になりました。
はんだペーストの塗布
ステンシルを用いてプリント基板にはんだペーストをぬり付けます。プリント基板を固定する際に、大きなアルミ板等に、使わない他のプリント基板やユニバーサル基板を組み合わせてプリント基板をテープで固定するとズレにくかったです。ステンシルをいい感じに固定してはんだペーストを塗布します、いらないカードやいらない基板等を用いて塗布していきます。上に貼った動画を見ると塗り方が大体つかめるかと思います。
ぬった後がこんな感じです。
あんまりうまく塗布できてませんが、こんな具合で大丈夫です。気になる場合はピンセット等で形を整えてもいいかもです。
表面実装パーツの設置
ピンセットで表面実装パーツをマウントしていきます。動画でも説明されていますが、はんだが解ける際に表面張力でいい感じに位置が整うので、ある程度雑においても大丈夫です。体感だと、QFNパッケージは半ピッチくらいならズレていてもリフロー時に正しい位置に戻ってくれます。
リフローではんだ付け
本当はリフロー炉等を用いてリフローを行うのが正しいやり方だと思いますが、個人でやるには難しいので動画でもあるようにホットプレートでリフローを行います。
自分が使ったホットプレートはこちら
リフローはんだ付けを行うプリント基板と、温度測定用の基板を配置して、テスターの測温抵抗器を用いて温度を測りながらリフローを行いました(下図)。
リフローを行う際の温度変化のさせ方はこの資料の6章が参考になりました。なるべくこんな感じの温度変化になるようにホットプレートのつまみを回して焼きます。
IMUが焼けてしまうのではないかと気になる方はIMUのデータシートにもリフロー時の推奨温度等が記載されていますので、そっちも参考になると思います。
リフローが終わった直後の基板がこちら
ところどころはんだがブリッジしているところがあるので、治してあげる必要があります。
はんだ付けの手直し
はんだがブリッジしているところを手直しします。
該当箇所にフラックスを塗布して、はんだごての先でなでてあげるだけで基本的にはブリッジが解消されます。それでも治らない場合ははんだ吸い取り線等を使って優しくはんだを除去します。
あとは表面実装以外のパーツを実装して基板は完成です。
ステンシルの洗浄
ステンシルを一度使用すると、はんだペーストで汚れて、とくにQFNなどの小さいピンの部分は穴がペーストでつぶれてしまうので、洗浄する必要があります。
正しいやり方かどうかわかりませんが、ステンシルにアルコールを流しながら歯ブラシで割と強めにごしごし磨いて、キッチンペーパーでふき取るときれいに取れました。これでステンシルを再利用できます。
IMUのマイコンでの使用方法の概要もまとめているのでそちらも参考にどうぞ
2020/7/4 追記
作成した基板ではQFNパッケージ裏のExposed Die Padにはんだ付けしちゃっているのですが、MPU9250を含めたinvensense製のセンサはExposed Die PadとPCBをはんだ付けしちゃうことを否定しているぽいです(下記ツイート参照)Exposed Die Padをはんだ付けしちゃうと、熱膨張の応力等で、センサ性能が変わってしまうとのこと。
詳しくは公式資料「InvenSense MEMS Handling 」を参考ください。
ICM-20948(MPU9250の後続IMU)使った基板設計しているんだけど。公式いわくQFNパッケージのExposed Die PadをPCBにはんだ付けする必要が無いって言ってるんだけどマジ?
— あーせにっく (@ArsenicLAB) 2020年7月4日
前に一回作ったときは普通にPCBにはんだ付けしちゃったわ
固定強度が落ちそうで不安なんだけど pic.twitter.com/eYV0fXnu5L